出会い
自分の住んでいた場所とは明らかに異なる町なかを少女は必死になって走っていた。
後ろからは石や棒をもった人達が追いかけてくる、その顔には殺気が見えた。
「あやかしだ、あいつはあやかしだ!俺は見たんだ、何も無い所から突然現れたのを!」
少女は自問した。
「どうして?こんなっ」
目の前が霞んでくる。それでも走る足は止めることが出来ない。
足を止めてしまえばどういう運命をたどるか、それは考えなくても明らかだった。
いつものように家へ帰る途中声を聞いた。
(神子、京を救え)と、その次は真っ暗な闇の中をさ迷った。そして次は広い泉のある場所に出た。
そこには着物を着た人達が話をしたり、水を汲んだりしていた。
そこで突然初老の男が自分を指差し叫んだ
「怨霊だ」と、
そして、その声を聞いた人達がこちらを向く、その中から一人が言った
「確かに、その場所には誰も居なかった・・・突然現れたとしか・・」着ている服も変だぞ、と
少女の着ている服は、そこに居る人達とは明らかに違っていた。少女の着ている服はどこかの制服みたいだ。
その周りの人達は皆、着物とかひな祭りに飾る人形みたいな服を着ていた。
(怨霊って何?私のこと!?)少女は何を言われているのかすぐには理解できなかった。だだ分かったのは・・・
「ここは、神泉園だぞ!狸などが化けているのではないか?」別の誰かが言った。
「もののけか、あやかしだろう」「人を騙しに来たんだ」「俺が追っ払ってやる」次々に声が上がる。
「その小娘は龍神の神子に禍をもたらすよ」一人の女が言った。
「白拍子だ」「院の神子様を連れてきてくださった方だ」次々に声が上がる。
「そして、それはこの京に災いをもたらす」白拍子と呼ばれた女が言った。そこに居た人達がが騒ぎ始める。
少女が分かったことは、逃げなければということだけ、不審そうに向けられていた目がその一言で憎悪に染まった瞬間駆け出した。
「あやかしが逃げ出すぞ!」その一声で少女を捕まえようと動き出した。
(馬鹿な奴等せいぜい頑張って捕まえな)後ろで嘲笑を浮かべた白拍子が黒い霧に包まれ消えていった。
「あやかしが山へ逃げるぞ!」男が叫んだ。
「ちがっ、私は、あやかしじゃないっ」少女は、何度この言葉を返しただろう、その言葉を信じようとする者はいなかった。
少女は恐ろしくて走り続けた。もう少し走れば山に隠れられそうだった。
息が切れ、今にも心臓が止まりそう。頭の中で何も考えられなくなり、真っ白になる。
突然あやかしと言われて、追い回されて捕まったらどうなるのだろうか?そう思った瞬間
右足に痛みが走り、あっと小さな悲鳴を上げてうつ伏せに倒れた。誰かが石を投げたのだ。
ずいぶん走ったから追ってきた人達は減っていたが、三、四人はいた。すぐに走り出そうとしたときには
追いつかれて、少女は、行く手を阻まれ取り囲まれてしまった。
「京の災いめ!」男の一人が棒を振り上げた。
「待ってっ」息が上がってかすれた声しかでない。その声は届かなかった。
(助けてっ・・・)反射的に両手で頭を庇う。
男が棒を振り下ろす。その時何かが真上を通り過ぎた。
「っつ!何だ」男の手に合った棒と赤い丸いものが転がっていた。
(赤いまり?)
男たちの目は赤いまりが飛んできた方向を向いていた。
少女はその隙に目指していた山の茂みに飛び込んだ。後ろから何か声が聞えてくるが
構わず走り続けて山の奥へ入っていく。声がしだいに小さくなっていって完全に聞えなくなっても
しばらく歩き続けた。
(ここ、どこだろう?どうすればいいの?家に帰りたい)
酷い夢を見ているみたいだった。夢なら早く醒めてと、思った
だんだん視界が霞んでくる。歩く足も止まっていた。
いろんな事が起こって混乱していた。帰るにはどうしたらいいか、そればかり考えて不安になっていく。
気が付くと、そこには泉があった。ちょうど走ったのもあって喉はカラカラだった。
誰も居ないのを確かめて、膝を付き手で掬って飲んだ。それから顔を洗って、足首を見た。
石が当たった所が赤黒くなっていた。転んだ時の擦り傷も何ヶ所か出来ていた。それも丁寧に洗った。
それから近くの石に座った。もう疲れて動きたく無かった。見るとはなしに水面に映る自分の顔を見る。
目が赤くなっていた。水面が揺れ後ろに人の姿が映った。
驚いて振り向くと一人の青年が立っていた。